会計で「のれん」という言葉が出てくるんだけど、お店の前に掲げてあるヒラヒラなアレのことだよね?
うーん、そうね、お店の見えない価値みたいなものかしらね?
会計だと「のれん」は超過収益力という意味合いがあるから、詳しく解説するね!
「のれん」とは
「のれん」とは、貸借対照表の資産科目の一つです。
企業の買収や合併 (M&A) の際に発生するもので、以下の計算により金額が算出されます。
のれん = 買収価額 - 買収された企業の時価評価後の純資産
のれんが意味するものは?
時価評価後の純資産は、時価評価前の残高と比べて企業の実態をより正確に反映した金額です。
この時価評価後の純資産を上回る金額部分が「のれん」となります。
買収額が時価評価後の純資産より高くなる理由
例えば、時価評価後の純資産が100の会社があり、黒字を計上している会社をあなたが所有していたとします。
あなたの会社を100(時価評価後の純資産価格)で買いたいという打診があった場合、オーナーのあなたはこれを受け入れるでしょうか?
答えはNOだと思います。それはなぜでしょうか。
今の時点では純資産が100であったとしても、今後も黒字基調である場合はその純資産が将来にわたって増加することが見込まれます。
会社の好調を支えているのは、会社のブランドやノウハウ、優秀な人材だったりするわけです。
そんな超過収益力は以下の特徴があります。
・他社が新規参入し獲得するには困難もしくは不可能
・他社がイチから獲得するには時間が非常にかかる
あなたとしては、当該超過収益力を加味して買収価格を提示して欲しいと思うはずです。
そのため、通常のケースでは、買収する会社の純資産を上回る買収価格が提示されて「のれん」が発生するものです。
一方で、「負ののれん」というケースもあります。
ケース別解説:財務諸表において「のれん」はどのように計上されるか?
財務諸表において「のれん」がどのように計上されるのかは組織再編の種類によって異なります。
具体的には以下のケースがあります。
①株式譲渡や株式買収:買収される会社が子会社になる場合
②吸収合併:買収される会社が買収する会社に吸収される場合
株式譲渡や株式交換などの場合
株式譲渡や株式交換では、被買収会社は買収会社の子会社となります。
買収会社の単体財務諸表
買収会社にとって、単体上の処理は被買収会社株式を取得したことにより被買収会社の株式が計上されるのみです。
よって、「のれん」は計上されません。
連結財務諸表
買収会社の単体財務諸表とは異なり、「のれん」が計上されることになります。
吸収合併などの場合
買収会社の単体財務諸表
吸収合併などで買収される会社が吸収される場合には、被買収会社は買収会社の単体財務諸表に取り込まれることになります。
その際に、買収会社の単体財務諸表において「のれん」が計上されることになります。
連結財務諸表(被買収会社以外に子会社があり、連結財務諸表が作成される場合)
単体の財務諸表で計上された「のれん」が連結上の財務諸表においても引き継ぐことになり、単体の財務諸表での計上額と同額が計上されることになります。
計上した後の「のれん」の取り扱いは?
財務諸表において計上された「のれん」は資産に分類される項目です。
資産の計上にあたっては資産価値があることが前提となります。
他の固定資産と同様に以下の会計処理が必要となります。
❶ 減価償却費の計上
❷ 減損の判定
❶減価償却費の計上 ❷減損の判定について、「日本基準(日本の会計基準)」と「IFRS(国際会計基準)」で処理が異なります。
会計基準 | メリット | デメリット |
---|---|---|
日本基準 | ・規則的に定額償却されることになるため、事務処理上の負担が小さい。 (減損処理を行った場合は規則的にはならないので注意) | ・規則的に償却されることになるため、営業利益にマイナスの方向に働く。 |
IFRS | ・償却処理されることがないため、損益計算書において利益にマイナスの影響がない。 (このメリットが大きいため、国際会計基準を導入する日本企業も存在する。) | ・減損テストを毎期実施する必要があるため、実務処理上の負担が大きい。 ・償却処理が行われていない分、減損損失の計上が必要になった場合には日本基準と比較して、計上される金額が大きくなる。 |
日本基準における「のれん」の具体的な会計処理
❶ 減価償却費の計上
日本基準ではIFRSと異なり、減価償却費を毎期規則的に計上していくことになります。
減価償却を行う際にポイントとなるのが、償却年数と償却の方法です。
償却年数
日本基準では、20年以内でのれんの効果が及ぶ期間にわたって、定額法などの合理的な方法により償却するルールとなっています。
また、企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針382項においては、以下が定められています。
なお、実務上、のれんの償却期間の決定にあたり、企業結合の対価の算定の基礎とした投資の合理的な回収期間を参考にすることも可能である。
償却の方法
定額法以外に合理的な方法を選択することも会計基準では認められてはいます。
しかしながら、実務においては定額法を採用することが一般的です。
「のれん」の効果がどのタイミングでどれくらい発生しているのかについての合理的な予測をすることが困難であるためと考えられます。
❷ 減損の判定
のれんの減損については、他の固定資産と同様に3ステップ方式で行っていくこととなります。
具体的には「減損の兆候判定」⇒「減損損失の認識」⇒「減損の測定」という流れです。
減損損失についてはこちらの記事も参考にしてみてください(参照記事は主に共用資産にスポットをあてていますが、基本的な考え方は同じです)。
IFRSにおける「のれん」の具体的な会計処理
❶ 減価償却費の計上
IFRSでは日本基準と異なり、のれんに関して減価償却費が計上されないことが特徴です。
そのため、IFRSではのれん償却費による利益のマイナス影響はありません。
「のれん」の減価償却費について、会計上の利益にマイナスの影響がないという点がIFRSのメリットです。
❷ 減損の判定
IFRSでは減損テストを毎期実施する必要があります。
日本基準においては3ステップのうち、減損の「兆候」がなければその先の「認識」のステップに進む必要はありません。
「のれん」について、IFRSでは日本基準と異なり、減損の兆候の有無に関わらず、減損テストを毎期実施しなければなりません。
減損テストを毎期行う必要があるIFRSでは日本基準と比べて実務上の事務負担が大きいことがデメリットといえます。
「のれん」について、どの論点の話をしているのかを意識しよう
「のれん」は多額に計上されるケースが多く、「のれん」計上後も会計上の論点になることが多いです。
「のれん」とは一体どういうものか理解したうえで、減価償却費の話なのか、減損の話なのか意識することが重要となります。
特に減損処理については、財務諸表の損益計算書に与える影響が大きいと言えるため、関連記事を参考にしてみてください。
超過収益力かぁ。ボクの真の価値を誰かにわかってもらいたいものだねぇ。
えびくん、ガンバレ!
超過収益力を維持していないとなれば、減損処理の可能性があるから注意してね!